有限会社金波楼 / KINPARO Co., Ltd.

里海邸の日記

About living simply
with sea nature

vol’08

「うみまち照らす」山村暮鳥の詩と童話 朗読

お盆前に大洗磯前神社で実施した「うみまち照らす」の朗読の部の動画が公開されました。

昨年に引き続きフリーアナウンサーの小野裕士氏さんが朗読をして下さっています。夏夜の神社の灯りに集まった人々の熱気を鎮めるような夜のクロージングプログラムとして山村暮鳥の作品朗読の詩選を担当させていただきました。詩文は大洗暮鳥会の加倉井東さんに確認していただいています。


- - - (山村暮鳥 作品紹介)


「自分は光をにぎってゐる」
光=未来と解釈。この詩をモチーフした日本映画『わたしは光をにぎっている』(Mio on the Shore )は2019年公開。監督・中川龍太郎、主演・松本穂香。田舎の廃業旅館の娘が東京に上京し、銭湯に居候。東京生活に馴染めない日々の中で自分探しを達成してゆく現代版「魔女の宅急便」のような物語です。

「海の話」
大海原を渡るシーンが浮かび、渡り鳥の厳しい生き様を知り、読者に家族愛や生きる覚悟を想像させるネイチ ャーライティング風の童話作品として、お子様向けに選びました。

「夜の詩」
悩み生きる大人たちが赤ちゃんとなる、安眠のための詩として選びました。
 

- - -

「自分は光をにぎつてゐる」  詩集「梢の巣にて」より

 
自分は光をにぎつてゐる
いまもいまとてにぎつてゐる
而もをりをりは考へる
此の掌をあけてみたら
からつぽではあるまいか
からつぽであつたらどうしよう
けれど自分はにぎつてゐる
いよいよしつかり握るのだ
あんな烈しい暴風の中で
掴んだひかりだ
はなすものか
どんなことがあつても
おゝ石になれ、拳  
此の生きのくるしみ
くるしければくるしいほど
自分は光をにぎりしめる
 
 
「海の話」  「小さな世界」童話集より
 
ある村に びんぼふな おひゃくしやうが ありました。びんぼふでしたが しんせつで なかのよい、かぞくでした。そこの かもゐに ことしも つばめが すを つくって、そして四五羽のひなを そだててゐました。
その日は あさから 雨がふってゐました。
すの中で、母つばめが ねむるともなく 目をつぶって じっとしてゐると ひなの一つが たづねました。
「母ちやん、何してるの。ええどうしたの」
と、しんぱいして。
「どうも しやしません。母ちゃんはね いま かんがへごとを してゐたの」
すると、他のひなが
「かんがへごとって なあに」
「それはね………さあ、何と言ったら いいでせう。あんたたちが はやく大きくなると、この國に さむいさむい 風が吹いたり、雪がふったりしないうちに、遠い遠い ほんとのお家へ かへるのよ。そして 遠い遠い その ほんとのお家へ かえるには、それはそれは 長いたびを しなければ ならないの。それがね、森や林のあるところなら よいが、つかれても 羽をやすめることも できず、おなかがすいても 何一つ食べるものもない、ひろい ひろい、それは大きな、毎日毎ばん、夜もひるも かけつづけで 七日も十日も かからなければ こせない大きな海の上を ゆくのよ」
「まあ」と、それをきいて ひなたちは おどろきました。
「それだからね、羽のよわいものや からだの たっしゃで ないものは、みんな とちゅうで、かわいさうに 海におちて 死んでしまふのよ」
きばやなのが
「たすけたらいい」と よこから 口をいれました。
「ところがね、それが できないの。なぜって、たれも かれも自分ひとりが やっとなのよ。みんな 一しょうけんめい ですもの。ひとを たすけやうとすれば、自分も ともに死んでしまはねば ならない。それでは  何にも ならないでせう。ほんとに そこでは たすけることも たすけられることもできない。まったく自分だけです。それより ないのさ、ね」
「でも、もし母ちやんが とべなくなったら、僕、死んでもいい、たすけてあげる」
「さうかい、ありがたう。だけどね、また その青々とした 大きな海を ぶじに わたりきって、をかから ふりかへって その海を しみじみながめる あの氣持つたら……あの時ばかりは いつの間にか ゐなくなつてゐる 友だちも みうちも わすれて、ほつとする。ああ、あのうれしさ……」
「はやく行つて見たいなあ」
「わたしもよ、ね、母ちやん」
「ええ、ええ。だれも おいては行きません。ひとりのこらず 行くのです。でもね、いいですか、それまでに 大きく そして りっぱに そだつことですよ。たっしゃな からだと つよい羽! わかって」
「ええ」
「ええ」
「ええ」
と小さいくちばしが 一せいに答えました。母つばめは たまらなくなって みんな一しよに だきしめながら
「なんてまあ かあいんだう」
  
 
「夜の詩」  詩集「風は草木にささやいた」より
 
あかんぼを寝かしつける
子守唄
やはらかく細くかなしく
それを歌つてゐる自分も
ほんとに何時かあかんぼとなり
ランプも火鉢も
急須も茶碗も
ぼんぼん時計も睡くなる
 
(暮鳥会 加倉井 東さん監修)