vol’03
春の光、春の磯
彼岸が過ぎて大洗海岸は寒さが抜けて暖かくなってきた。
湿り気が身体にやさしく嬉しい。
ちょうど朝支度を始める頃には、大海原が静かに光の粒を広げていた。
光の下では海藻の森が広がっている。
那須の辺りで雨が降るたびに、那珂川を下った大量の泥水はやがて大洗海岸に辿り着く。
土色の川水混じりの海水が磯を覆って、潮間帯に広がる海藻をミネラルで潤し、育てる。
大洗海岸の磯は山海の交流が頻繁に行われて生命が輝く場所なのだ。
春は大洗サンビーチの潮干狩りで知られるように、干潮時間が昼間に移動する。
同じく磯でも潮位は大きく下がる日があって、その日は太陽の下で磯の海藻たちが力強い姿を自慢する展覧会がはじまる。
暖かさが進むと、太陽の光は磯の底に届いてカニやヤドカリが見える。
岩の間で散乱する光の中、バッコなどの小さな魚たちは子供のようにスッスッと飛ぶように泳ぎはじめる。
夏に向かって、磯は賑やかな祭りの準備がはじまるのだ。